秘密保持契約書(NDA、機密保持契約書、印紙)を徹底詳細解説!
最終更新日:2023年12月6日
秘密保持契約書(NDA)は、企業間で非常に多く締結される契約書です。
取引を開始するためには、その前に自社にとって重要な情報を開示する必要があり、開示をする当事者の権利と開示を受ける当事者の義務を明確に規定する必要があります。
以下において、秘密保持契約書(NDA)に関する詳細解説をしております。
秘密保持契約書締結の目的
秘密保持契約書はなぜ締結する必要があるのでしょうか。
秘密保持契約書を締結する目的を以下に挙げてみました。
- 秘密情報の開示を受ける当事者に秘密保持義務を課し、秘密情報の漏洩を防止するため
- 秘密情報の範囲を明確にするため
- 権利の帰属の明確化と権利の確保を図るため
- 秘密保持契約に違反した場合、損害賠償を請求するため
- 秘密情報の開示を受ける当事者が秘密情報を使用して、新商品や新サービスを開発・販売することを防止するため
秘密保持契約書のパターン
秘密保持契約書には、具体的な契約の前に締結する「事前検討型」と具体的な契約に付随して、その契約と同時か事後に締結する「事後付随型」とがあります。
事前検討型
一般的な秘密保持契約書は、多くがこのパターンです。
企業間で、システム開発、共同開発、協業などの取引を開始する前に、公開されている情報だけでなく、有益な秘密情報を相手方に提供して、その取引ができるかどうかについて、まずは検討を行うことがあります。
検討が短期間で終わり、すぐに取引に関する契約が締結できれば、取引に関する契約書(業務委託契約書や取引基本契約書など)にある「秘密保持」条項で、秘密情報の開示を受ける当事者に対し、秘密保持義務を課すことができるのですが、検討期間は通常数カ月かかることも多く、この場合、秘密保持義務を秘密情報の開示を受ける当事者に課すことのできない状態が継続してしまいます。
これでは、検討の段階で提供した自社の重要な秘密情報が、秘密情報の開示を受ける当事者から第三者に開示・漏洩されたりする可能性が大きくなり、自社に多大な損害が生じてしまうおそれがあります。
取引の検討段階でも、秘密情報を丁重に取扱うよう定め、第三者に開示漏洩させないために、秘密保持契約書を締結しておくことが重要となります。
事後付随型
ここ数年、秘密情報管理の重要性及び漏洩防止の観点から、企業間で締結されることが非常に増えています。
業務の委託、特に、短期間で契約が終了するソフトウェア開発やホームページ制作などの業務の委託とは異なり、ソフトウェア保守やシステム運用などの継続的な業務を委託すれば、他人に自らの重要な秘密情報や顧客情報などを提供したり、使用させ続けることになります。
実際、ソフトウェア保守やシステム運用などの契約書を締結すると、一般条項として「秘密保持義務」の条項があるのですが、このような契約書の一条項だけでは、秘密情報の開示を受ける当事者を縛るのにも限界があります。
そのため、秘密情報の具体的な管理や情報漏洩した場合の詳細な対応などを明確にするために、補足的に秘密保持契約書を締結しておくのです。
このような「事後付随型」の秘密保持契約書は、あくまでも、ソフトウェア保守やシステム運用などの主たる契約書に付随して締結されることが多いですので、これらの契約がすべて終了すると、秘密保持契約も効力を失うこととするものが多いです。
ただし、秘密保持契約終了後も一定期間秘密保持条項が存続するなどと定めておくことも多くあります。
なお、この「事後型」の秘密保持契約書は、「秘密情報管理に関する覚書」、「情報漏洩防止に関する契約書」、「秘密保持覚書」などというタイトルになっていることもあります。
秘密情報の定義
秘密保持契約書において、秘密情報の範囲を明確にすることが重要です。そのため、秘密情報がどのような情報かを契約書上で定義する必要があります。
秘密情報は、当事者としての立場が変われば、開示される情報も異なります。
例えば、開発契約書で発注者(委託者)から提供される情報は、一般的に、技術的な情報や販売先・販売方法などの情報が、受注者(受託者)から提供される情報は、開発ノウハウ、営業先・営業方法、より詳細な業務情報などが考えられます。
また、どのような媒体で提供されるのかも重要です。媒体は、口頭・音声・書面・電磁的記録などが挙げられます。
秘密情報を開示する当事者の立場に立つと、秘密情報の範囲を広げておくことが一般的に有利とされていますし、一方、秘密情報の開示を受ける当事者の立場に立つと、秘密情報の範囲を狭めておくことが一般的に有利とされています。
秘密情報の範囲を狭めておく手法としてよくとられるのが、「秘密である旨を明示して開示された情報」に限定することです。
具体的にどの情報が秘密であるかについて、秘密情報を開示する当事者から開示を受ける際に明示してもらうことで秘密情報を限定することができます。
書面や電磁的記録であれば、これでいいのですが、口頭や音声などでは、秘密である旨をその都度明示してもらい、後日、書面でどの情報が秘密情報であるかを明確にしてもらうこともよく規定されています。
ただ、一部上場の大企業では、秘密である旨明示した情報と限定せず、口頭・音声・書面・電磁的記録のどの媒体を問わず、開示を受ける当事者が知り得た情報がすべて秘密情報であると規定するケースも多くあります。
確かに、範囲が広いほうが有利に思えるかもしれませんが、範囲が広すぎると、かえって秘密情報の開示を受ける当事者がしっかりとした対応ができず、秘密情報を漏えいしたりする可能性も高くなりますので、範囲が広ければよいという訳ではないと言えます。
また、以下に挙げた情報は、秘密情報に該当しないこととして定めておくことが多いです。
秘密情報の開示を受ける場合には、必ず定めておきたいところです。
秘密情報に該当しない情報の例
- 既に公知となっている情報
- 既に保有している情報
- 秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報
-
独自に開発した情報
秘密保持義務者
秘密保持契約書では、誰が秘密保持義務を負うのかということも重要となってきます。
まず、上記で見たように、誰から誰にどんな情報が開示されるのかを、個別の案件ごとに、検討する必要があります。
秘密情報を開示するのが一方当事者のみであれば、他方当事者のみ秘密保持義務を負うことになりますが、秘密情報を双方が開示するのであれば、両当事者とも秘密保持義務を負うことになります。
通常、秘密保持契約書を締結して、検討などを行う場合、当事者双方から秘密情報が開示され、両当事者とも秘密保持義務を負うべきなのですが、発注者が大企業であるような場合、パワーバランスから、発注者は負わず、受注者だけが負うように締結させられるケースが多いですので、注意が必要です。
特に、「事後付随型」の秘密保持契約書の場合、一方的に受注者のみ義務を負うことが多いです。
また、実際に秘密義務を負うのは、役員や従業員、企業がアドバイスをもらっている弁護士、公認会計士、司法書士などの公的資格を有する者となります。これらの者も秘密保持契約書の内容を遵守する必要があると規定することが一般的です。
更に、業務委託契約の場合のように、受注者が業務を再委託先に再委託する場合、再委託先にも業務を実施するうえでの必要な情報が開示されますので、再委託先も秘密保持義務を負うことになります(再委託先が受注者と同等の義務を負う旨記載)。
通常、役員や従業員、公的資格者や再委託先までの秘密情報の開示は、許容されることが多くありますが、それ以外の第三者への開示は、禁止されることとなります。
あと、発注者から、そのグループ会社にも秘密情報を開示したいという要望を受ける場合もあります。
いくつもあるグループ会社のすべてに秘密情報を開示可能とすると、その中には受注者にとって、ライバル関係の会社も含まれているかもしれませんし、受注者に著しい不利益を被る可能性が生じますので、なるべく開示する会社を事前に特定するなど制限をかけるようにしたいところです。
秘密保持義務
ほとんどの秘密保持契約書には、秘密保持義務として、秘密情報を第三者に開示や漏洩をしてはならないと定めています。
しかし、重要な2点が欠落している契約書が多いと感じます。
1つ目は、開示を受ける当事者に対して、秘密情報について、「目的外の利用の禁止義務」に関する記載がないことです。
検討や業務遂行の目的外にも利用してはならないということを明記しないと、開示する当事者の秘密情報について、開示を受ける当事者が悪用・流用するなどして、新商品や新サービスを開発・販売してしまい、開示する当事者に損害が生じることも想定されます。
2つ目は、開示を受ける当事者に対して、秘密情報の取扱いについて、「善良なる管理者の注意義務」(その職業や地位にある人として通常要求される程度の注意義務)や「厳重かつ適切に取り扱う義務」を負ってもらうような記載がないことです。
このような記載がないと、開示を受ける当事者が積極的に開示漏洩しなくとも、会社のデスクの上に秘密情報を置きっぱなして、会社の別の社員に持ち出されたり、秘密情報が多数の人の目に触れることにもつながります。
そのため、しっかりと上記2つの義務を定めることが非常に重要となります。
有効期間
秘密保持契約書の有効期間はどれくらいに設定すればいいのでしょうか?
一般的に秘密情報を開示する立場としては、有効期間を長く設定し、開示される側としては短く設定したいとする傾向があります。
「事前検討型」の場合、おおよそ、開示後1~5年か程度で折り合うことが多いようですが、案件毎に適切な期間を設定することが必要です。
また、「事後付随型」の場合、保守契約書や運用契約書などに付随しますので、これらの契約書と同じ期間有効としたり、この期間終了後●年間や永続的な期間有効と定めることがあります。
秘密情報の返還・消去
秘密情報を開示する当事者は、秘密保持契約書の有効期間が終了したとき、秘密情報を使用しなくなったときなどは、秘密情報の開示を受ける当事者に秘密情報を返還してもらう必要があります。
ずっと秘密情報を保管している情報ですと、不測の事態が生じ、秘密情報を漏えいする可能性があるからです。
秘密保持契約書には、この秘密情報の返還をしっかりと定めておきたいです。
また、秘密情報は、書面などの有体物でなく、電子データかもしれません。電子データであれば、複写・複製することも容易ですので、複写・複製したものも、返還してもらいましょう。
電子データの場合は、返還よりも消去のほうが適しているかもしれません。
この場合、秘密情報の開示を受けた当事者に、間違いなく秘密情報(複写・複製したものも含めて)を消去したことを証明する証明書を提出してもらうことも重要です。
そうすることで、重要な秘密情報の漏えいの可能性が格段に減少します。
さらに、秘密保持契約書に記載するだけでなく、秘密保持契約書の有効期間が終了したとき、秘密情報を使用しなくなったときなどに、秘密情報の開示を受けた当事者に対し、実際に、返還や消去を求めることも重要となります。
返還や消去の義務があることを規定はしているだけで終わってしまっているケースが非常に多いですので、ご注意ください。
秘密保持契約書の解除
秘密保持契約書に解除や途中解約の条項はあまり見られません。
秘密保持契約書は、秘密情報を取り扱う当事者に秘密保持義務を負わせ、秘密情報の開示漏洩や目的外利用を制限するための契約書ですから、解除や途中解約をすることによって、契約を終了させ、秘密保持義務を負わなくてもいいとすることには意味がないからです。
秘密保持契約書の解除や途中解約は不要ではありますが、もし規定するのであれば、秘密保持契約書が終了した場合でも、相当期間、秘密保持義務に関する条項を存続させる条項を規定しておくとよさそうです。
また、秘密保持契約書に解除や途中解約を規定しない場合、秘密情報の開示を受ける当事者に対し、いつでも秘密情報の返還や消去を求めることができるようにしておくことも必要となります。
無関係社員への開示
秘密情報を開示する当事者にとって、秘密情報の開示を受ける当事者がその社内で、秘密情報をできるだけ必要最小限の人数で取り扱ってもらいたいです。
社内とはいえ、秘密情報を取り扱うプロジェクトや共同研究などに関わらない社員、派遣社員、アルバイトなどの無関係社員にまで開示したり、情報共有してほしくないのです。
社内の無関係社員にまで秘密情報が開示されてしまうと、社内の無関係社員はその秘密情報の重要性を知らない訳ですから、丁重に取り扱わず、秘密情報がさらに第三者に開示されたり、漏洩してしまう可能性が高まります。
そういった点から、開示をする当事者としては、社内の無関係社員への開示漏えいの禁止もしっかりと規定しておきたいところです。
また、開示を受ける当事者は、社内の関係社員に対して、秘密保持契約書の内容を周知したり、秘密保持契約書の義務を負わせることも規定しておきます。
このような対応をとることで、開示を受ける当事者の関係社員にとって、プロジェクトや共同研究における秘密情報の重要性に関する意識の向上につながり、これによって、秘密情報の開示漏えいの可能性が減少することにもつながります。
秘密保持契約書の印紙
秘密保持契約書は、課税文書に該当しませんので、不課税文書となり、収入印紙の貼付は不要です。
但し、秘密保持契約書に請負など課税文書とされる契約が混在していると、課税文書とみなされることがありますので、ご注意ください。