開発契約書の契約パターンを上流下流工程に分け徹底解説!
最終更新日:2023年8月8日
開発契約書の契約パターンについて、徹底解説をしております。
上流工程と下流工程
ソフトウェアやシステムの開発契約書では、基本契約書を締結して、その基本契約書に基づき個別契約書を締結したり、基本契約書を締結せず個別に業務委託契約書を締結したり、すべて1つの業務委託契約書で締結したりするパターンがあります。契約相手ごとに対応が違うようで、分かりにくいですので、それについて解説します。
その前に、開発契約書は大きく分けて、上流工程と下流工程の2つの工程に分類することができます。まず、開発契約書の締結パターンを論じる前に、まずこの2つの工程について、みていきます。
上流工程
上流工程では、委託者は、受託者から要求分析・定義、外部設計を委託されますが、これらについては、委託者の協力が不可欠であり、受託者が委託者の技術支援を行う性質です。そのため、仕事の完成責任を負わない業務であるため、準委任契約であることが一般的です。
上流工程の開発契約書には、以下の内容を盛り込む必要があります。
- 委託者の協力がなければ、業務が進行しないので、協力が必要なことを明確にしておく。
- 業務の進行状況により、仕様に変更・追加があることが多いので、その手順を明確にしておく。
- 同一性保持権(著作者の同意なしに改変できないとする権利)受託者の業務実施だけで仕事を完成させることはできず、また、契約段階でどの仕事を完成させなければならないかが不明確であったり、委託者が提示する情報が不十分であることも考えられますので、準委任である旨を明確にしておく。
下流工程
下流工程では、上流工程で完成した要求定義により、順に、内部設計→プログラム設計→プログラミング→結合テスト→システムテスト→運用テストが行われることが多いです。
そして、下流工程では、ソフトウェアの形が明確になっていて、それを基にソフトウェアを開発しますので、請負契約にすることが一般的です。
以上のような工程があることを踏まえて、開発契約書の締結パターンをみていきましょう。
開発契約書を締結するにあたっては、3つのパターンがあります。それぞれの方法ごとにメリット・デメリットがありますので、最も合う方法を選択し、開発契約書を作成することになります。
基本契約書+個別契約書パターン
委託者と受託者との間で業務委託基本契約書を締結し、工程ごとに個別契約書を締結するパターンです。
まずは、個別契約書とは別に、業務委託基本契約書を締結して、ソフトウェア開発全体に関する共通の事項を定めます。
次に、開発における上流工程や下流工程の業務毎に、業務内容や必要事項などを記載した注文書等で個別契約書を締結します。この場合の個別契約書では、業務委託基本契約書に記載の契約条項が適用されますので、契約条項は省略でき、案件に特有の情報のみを記載します。
また、個別契約書と業務委託基本契約書とが抵触する場合、個別契約書の規定が基本契約書に優先することを規定しておくことが一般的です。
メリット
- 1つのプロジェクトの上流工程・下流工程に関する業務に対して、共通の条件を定めておくことで、個別契約ごとに契約条件を定める必要がない(主に業務などの仕様のみ)。これにより、注文書で締結がすることもできるので、簡易になります。
- 同じ契約当事者間で、他のプロジェクトを受委託が行われる場合にも、業務委託基本契約書を適用できます。
- 個別契約書を注文書と注文請書で締結する場合、注文書への印紙を不要とすることができます。
デメリット
- 業務委託基本契約書が請負の性質を有する場合、印紙税法における7号文書に属することになるので、収入印紙が高額(4,000円)となります。
- 業務委託基本契約書を締結したのに、個別契約を1回しか締結しないこともよくあり、業務委託基本契約書作成の手間と収入印紙が余計にかかることになります。
多段階契約パターン
委託者と受託者との間で工程ごとに、個別の準委任契約書と請負契約を締結するパターンです。いわば、多段階契約です。
まず、上流工程の要件定義支援契約書を委任契約として締結します。上流工程の終了後、下流工程の開発契約書を請負契約として締結します。
それぞれの工程ごとに金額と納期を定めることになります。
メリット
- 上流工程か下流工程を委託する場合のみ契約書を締結すればOKです。
- 工程ごとの契約なので、上流工程においては、準委任契約とすることができますので、責任を軽減できます。
- それぞれの工程の納期が別ですので、受託者の立場からすると履行遅滞のリスクが減少されます。
デメリット
特になし
一括請負契約パターン
上流工程と下流工程すべてを1つの開発請負契約書として締結するパターンです。
メリット
上流工程と下流工程とで1つの開発契約を締結するので、契約事務手続きの稼動軽減につながります。
デメリット
本来、準委任の性質が強い上流工程の契約を、請負の性質が強い下流工程の契約とあわせて開発請負契約として締結することで、リスクが高まります(要件定義書における仕事の完成義務、契約不適合責任、履行遅滞、損害賠償の可能性あり)。。