SES契約書(準委任契約)を徹底詳細解説!
最終更新日:2025年12月30日
SES契約書・SES基本契約書(準委任契約)は、「成果物の納入ではなく業務の実施」がメインとなる契約形態で、請負契約・派遣契約とは責任範囲が大きく異なります。
しかし、実務では、請負との違いが曖昧なまま運用されていたり、実態が派遣と同様になってしまっているケースが少なくありません。
また、指揮命令関係のグレーゾーン(偽装請負問題) 、取適法(4条書面)に定める対象取引であることを意識せずに契約してしまうことも非常に多く、委託事業者の大きなリスクにつながっています。
本ページでは、SES契約書の基本、労働者派遣との違い、SESの報酬の問題、SES契約がNGとなるケースなどを行政書士が実務経験に基づいてわかりやすく解説しています。
SESとは?
SESとは、「システムエンジニアリングサービス(Systems Engineering Services)」のことで、受託者のエンジニアを委託者の作業場所に常駐させて、委託者の行うソフトウェアやシステムの開発・保守・運用等を専門的な立場から技術サポートするものです。
SESは非常に多く利用されていますが、準委任契約といいながら、実態が派遣契約となっていることがあり、法的にグレーな部分も存在しますので、その運用には十分注意する必要があります。
SESの特徴
SESは、以下の特徴があります。
- 委託者の事業所に、受託者のエンジニアを常駐させる場合が多いです。最近はテレワーク導入の場合もあります。
- SES業務の内容がシステム開発・システム保守・システム運用などに関する技術支援業務であることが多いです。
- 労働者派遣契約でなく、基本的に、準委任型の業務委託契約として締結されます。
- 準委任契約となり、仕事の完成でなく、SES業務の実施により報酬が発生する性質があります。
- 派遣契約ではありませんので、委託者は受託者のエンジニアに直接指揮命令ができず(実際は指揮命令している場合もあり)、受託者の管理者が行う必要があります。
- エンジニアとの労働契約・社会保険等は受託者が責任をもって行う必要があります。
SES契約と準委任契約
SES契約は、ソフトウェアやシステムの開発・保守・運用等に関する技術サポート業務を委託者から受託者に委託するものです。仕事の完成責任を負う成果物の納入ではなく、業務の処理に対して報酬が支払われる準委任契約となっているものが一般的です。
SES契約と派遣契約
SES契約は、受託者がエンジニアを委託者に常駐させて行うものですから、派遣契約と類似した契約スキームとなります。
契約の流れはそれぞれ以下のとおりとなります。
①SES契約:「委託者」←業務委託契約→「受託者」←労働契約→「エンジニア」
②派遣契約:「派遣先」←派遣契約→「派遣元」←労働契約→「エンジニア」
派遣契約の場合は、常駐先である「派遣先」からエンジニアに直接指揮命令できますが、SES契約の場合、常駐先である「委託者」からエンジニアには直接指揮命令できず、受託者が定めた責任者を通じて行う必要があります。
この指揮命令形態がうまくいっていない場合、偽装請負となり違法性の可能性が高まります。実際、そのようなSES契約書を多く見かけますので、ご注意ください。

SES契約と派遣契約の違い
SES契約と派遣契約の違いをいくつかの観点からまとめてみました。

SES契約がNGとなる可能性が高いケース
SES契約がNGとなる可能性が高いのは以下のケースです。
①委託者がエンジニアに直接指揮命令している
SES契約書ですから、 形式的には準委任契約かもしれませんが、委託者が受託者のエンジニアに直接指揮命令すると、実質的に「偽装派遣」になると判断され違法となる可能性があります。委託者は、受託者の責任者を通じて、エンジニアに指揮命令する必要があります。
➁委託者がエンジニアの勤怠管理をしている(勤務時間の把握)
業務の委託を受ける個人事業主としての独立性がなくなり、「雇用」とみなされるリスクがありますし、「偽装請負」の可能性もあります。
●契約書作成をご検討の方へ
SES契約書・SES基本契約書を新規で作成したい場合は、当事務所の契約書作成サービスページをご覧ください。
請負か委任か派遣か、取適法・フリーランス法に該当することがないか確認のうえで作成いたします。
報酬の作業時間による精算
SES契約の報酬は、定額で定められることもありますが、作業時間(時間単価×業務実施時間)に基づいて精算されることも多いです。この場合、労務提供的な側面がありますので、いわゆるグレーになります。
特に、委託者が9:30〜18:00に委託者の指定場所に常駐して作業することを求めたり、SES契約書に、エンジニアによる遅刻・欠勤があった場合に減額されることなどが定まっていると、時間的拘束が強く、労働者性があると判断され、偽装派遣とみなされるリスクがありますので、注意が必要です。
実際、労働局に問い合わせた場合でも、報酬を時間的な算出により精算することについて、あまり積極的ではない傾向が強いと思います(問い合わせした場合の反応により感じた主観的な感覚です)。
本来、できるだけ避けたいところ、報酬を作業時間により精算する場合、あくまでも、時間的な「拘束」でなく、時間的な「目安」として取り扱うのがベターなのではないかと考えます。
SES基本契約書
SES契約書を締結する際には、個別にSES契約書を締結するのではなく、SES基本契約書を締結しておいて、その後案件ごとに、注文書と注文請書により個別契約書を締結することが多いです。

注文書と注文請書については、業務内容をしっかりと規定しておくことが必要ですし、取適法やフリーランス法に該当する取引になるようでしたら、取適法4条書面、フリーランス法3条通知の要件に合致するように作成する必要があります。
請負型のSES契約書
SES契約は、一般的に「準委任契約」として構成されることが多いです。
一方で、委託側としては、故意に「請負契約」として締結し、受託者にソフトウェア開発やドキュメントの作成など仕事の完成責任を負う業務を委託することもあります。この場合、「請負契約」ということでいいのですが、SES契約を「準委任契約」としながらも、契約内容が「請負契約」となっているものが多く見受けられます。
タイトルにSES契約書と記載していて、SES契約書は一般的に「準委任契約」だから「準委任契約」だと主張される方も多いのです。
SES契約書については、業務や契約の内容など中身で判断しますので、「準委任契約」にしたいのであれば、「準委任契約」に沿った業務内容や契約内容であることが必要ですので、ご注意いただきたいです。
SES契約書は、「請負契約」でなく、「準委任契約」とすることが一般的ですので、実際に「準委任契約」とするのであれば、以下の条項については、SES契約書には記載しないほうがよさそうです。
記載してしまいますと、「請負契約」と判断されて、仕事の完成責任を負うことにもつながりますし、収入印紙がかかることもあります。
・仕事の完成をチェックする受入検査
・契約不適合
・仕事の完成に対する報酬の支払
SES契約書が取適法に該当する場合
SES契約書は、以下のように、再委託となっているケースが実務では非常に多いです。
・SES契約:「委託者」←業務委託契約→「受託者兼委託者(SES事業者)」←業務委託契約(準委任)→「エンジニア」
青字部分のSES業務が取適法(旧下請法)の対象取引に該当するかは、取引の内容、資本金の額、従業員の数によって定まりますが、対象取引に該当することになれば、受託者兼委託者は、取適法に定める委託事業者の義務を遵守したり、委託事業者としての禁止行為をしないようにしないといけません。
取適法に定められている事項として、委託者の義務は以下のとおりです。
- 支払期日を定める義務
- 発注内容等を明示する義務(4条書面)
- 遅延利息の支払義務
- 取引記録の作成・保存義務(7条書類)
上記2の4条書面として業務委託契約書を整備して、4条に定める内容(1の支払期日を含む)を網羅して契約する必要があります(交付でもいいですが、通常は業務委託契約書を締結します)。また、7条所定の内容の取引記録も作成して保存しておく必要があります。
対象取引に該当するにもかかわらず、この対応を行っていない事業者が多い印象を受けます。
また、委託者としての禁止行為は以下のとおりです。
- 受領拒否の禁止
- 支払遅延の禁止
- 減額の禁止
- 返品の禁止
- 買いたたきの禁止
- 報復措置の禁止
- 有償支給原材料等の代金の早期決済の禁止
- 不当な経済上の利益の提供の要請の禁止
- 不当な給付内容の変更および不当なやり直しの禁止
- 協議に応じない一方的な代金決定
上記だけでなく、SES業務が取適法の対象取引に該当する場合、他にも義務を課されますので、ご注意ください。
SES契約書の印紙
SES契約書は、「準委任契約」となることが一般的であり、この場合、「不課税文書」となりますので、収入印紙は不要となります。
但し、SES契約書に、「請負契約」の性質を有する条項を規定することで、印紙税法上の「2号文書」や「7号文書」と判断され、収入印紙の貼付が必要となる可能性がありますので、ご注意ください。
SES契約書について、リーガルチェックをしてみると、収入印紙の貼付が必要となる「課税文書」となっていた事例がいくつもあります。
よくあるご質問
SES契約書に関するよくあるご質問について、まとめてみました。
- SES契約と派遣契約の違いは何でしょうか?
- SES契約は準委任契約であり、受託者が自己の裁量で業務を実施しますが、派遣契約は労働者派遣法に基づき、派遣先が派遣労働者に指揮命令を行います。
つまり、指揮命令の有無が最大の違いとなります。 - 基本契約書は抽象的で枠組みを定めたものであり、成果物、納期、業務内容・委託料などの具体的な内容を定めません。
そのため、具体的な内容を定めるため、個別契約書も締結する必要があるのです。 - 契約書の作成とリーガルチェックの違いは何ですか?
- 契約書の作成は、新たに契約書を作成するサービスです。
一方、リーガルチェックは、すでにある契約書(ご自分で用意したものor契約相手から提示されたもの)の内容を確認し、法的な問題がないか、リスクや不利がないか、矛盾や不備がないかをチェックして、修正・改善するサービスです。
これから契約書を用意する必要がある場合は契約書作成サービスを、すでに契約書がある場合はリーガルチェックサービスをご案内しています。 - リーガルチェックでは、どこまで対応してもらえますか?
- 対象契約書を確認して、条文の内容の妥当性、不利な条文の有無、矛盾点、取適法(旧下請法)やフリーランスなどの法令に適合しているか、その対象契約書で問題となりやすい点などを洗い出します。
契約の内容・目的や取引実態を踏まえたうえで、これまでの自分の経験も加味して、お客様が不利にならないよう、安心して契約ができるよう、丁寧に必要な修正を行います。
修正には履歴を残しますので、どこが修正されたか一目瞭然です。
詳細はリーガルチェックサービスをご確認ください。 - 契約書の確認が定期的に発生する場合は、どうすればよいですか?
- 業務委託基本契約書や注文書・請書など、契約書の確認が継続的に発生する場合には、定額制でリーガルチェックを行う契約書定額チェックサービスをご案内しています。
SES契約書の作成や見直しを検討している方へ
SES契約書、SES基本契約書については、業務の内容・性質、指揮命令系統や契約金額の精算方法など、実際の運用を踏まえて整理する必要があります。
特に、SES契約書では、偽装請負と指摘されるケースが数多く見られます。
業務委託契約なのに、委託者(常駐させる側)が受託者のスタッフに直接指揮命令している事例も多く見受けられます。
そのため、SES契約書については、契約書の文言だけでなく、実際の運用も含めて確認したうえで、
作成や見直しを行うことが重要です。
当事務所では、SES契約書の実態を考慮のうえ、SES契約書の作成や内容の見直しについて対応しております。
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