個人事業主(フリーランス)との業務委託契約と労働契約を解説!
最終更新日:2022年10月7日
個人への業務委託について、詳細解説をしております。
目次
1.個人への業務委託は注意が必要です!2.個人へ業務委託する理由
3.個人への業務委託が問題となるケース
4.個人への業務委託に適した業務
5.個人への業務委託に適さない業務
6.口頭契約によるリスク
7.個人との業務委託契約にお悩みの方へ
1.個人への業務委託は注意が必要です!
業務委託契約は、会社間で締結されることが非常に多い契約ですが、会社から個人(個人事業主、フリーランス)に業務委託されることも多く見受けられます。個人への業務委託は、一見業務委託契約(請負契約)を装いながら、実態が労働契約になっていること(偽装請負)が多いので、注意しなければなりません。
個人との業務委託契約を締結するとすぐに違法かというとそういう訳ではありませんが、実態が労働契約となっている業務委託契約を締結することによって、委託者(使用者)が労災加入義務、時間外勤務手当や休日出勤手当の支払い義務、年次有給休暇を取らせる義務などの労働基準法などに定められた義務を履行しないことが問題となるのです。
また、会社側が労働基準法などに定められた義務を履行せずに、罰則を受けるだけでなく、業務委託契約を締結する個人に訴えられ、労働者としての権利が認められれば、社会保険料や時間外手当等の後日支給その他補償や損害賠償をしたり、社会的な信用を失墜する可能性がありますので、注意が必要となります。
仮に、契約書のタイトルが「業務委託契約書」「委託契約書」「請負契約書」などとなっていたとしても、契約書の内容で判断しますので、労働契約の内容になっていれば、労働契約とみなされます(契約書ではタイトルでなく内容を重視しています)。もちろん、契約書の記載にかかわらず、従事している実態が労働契約であれば、この場合も労働契約とみなされます。
★個人事業主との業務委託は、内容が労働契約であることが非常に多いです。
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2.個人へ業務委託する理由
では、なぜ、労働契約でなく、個人と業務委託契約を締結するのでしょうか?
その理由は「専門性がある人材を確保できる」、「短期間だけ人材を確保できる」など考えられますが、やはり「コストを節約できる」ことが一番の理由だと考えられます。
労働契約にしてしまうと、使用者は社会保険・雇用保険・労災保険・時間外手当・休日手当・年次有給休暇等のコストを負担することになりますが、業務委託契約では、そのようなコストを負担する必要がないのです。
また、一旦社員として雇用すると、簡単に解雇する訳にもいきませんが、業務委託契約ですと、短期間で契約を終了することができますので、人件費をかけず、コストの節約をすることができるのです。
昨今の厳しい経済環境から少しでもコストを節約したいとする会社は数多く、そういった会社が個人へ業務委託をしていることが多いのかもしれません。
3.個人への業務委託が問題となるケース
個人への業務委託契約が問題となるのは、委託者と受託者との間に「使用従属性」があるかどうかです。
受託者である個人が委託者からの「使用従属性」があれば、労働契約と判断されてしまうのです。
それを判断するためのチェック項目が以下にあります(労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(昭和60.12.19)から抜粋)。
個人への業務委託を検討される場合には、チェック項目に従い、スキームを見直す必要があるかもしれません。
◇個人事業主への業務委託のチェック項目(「使用従属性」に関する判断基準)
・委託者からの仕事の依頼・業務の指示を断ることができるか?
・業務遂行にあたり、委託者から具体的な内容や方法の指示がないか?
・進捗状況の報告義務や勤務時間の管理がないか?
・委託される個人事業主本人に代わって他の者が業務を実施できるか?
・報酬は、時間給、日給、月給ではなく、出来高払いであるか?
これら上記のチェックポイントすべてに対して、「YES」と回答できる場合、「使用従属性」がなく、業務委託契約として締結できることになります。
また、上記だけで判断できない場合、「労働者性の判断を補強する要素」(事業者性の有無、専属制の程度など)を加味して総合的に判断します。
・機械・器具などの経費は、個人事業主が負担するか?
・他の一般社員より報酬が高額か?
・報酬に生活給的な要素はないか?
・委託者以外の会社から委託される業務を自由に受注できるか?
これら上記のチェックポイントにすべて「YES」と回答できる場合、業務委託契約として締結できることになりますが、そうでない場合でも、個別具体的に、そして総合的に、労働者性を判断することになります。
このように、個人への業務委託については、上記の判断基準から、「労働者性」でないかが判断されることになっているのですが、このことを知らずに、明らかに、労働者性に該当する業務委託契約を締結している方が多いですので、注意が必要です。
参考までに、ヒルトップにご相談いただいた事例で申し上げますと、アロマテラピーの業務委託契約を締結して、受託者(個人)が委託者の経営する店舗で業務に従事し、その店舗の店長や社員の指揮命令を受けたり、業務委託契約に記載のない雑務を強いられているケースでした。
委託者から受託者(個人)に指揮命令をしていると、「指揮監督関係の基本的かつ重要な要素」とみなされますし、受託者(個人)が委託者からの指示を断ることができないとなると、「指揮監督関係を推認させる重要な要素」とみなされ、「労働者性」が認められる可能性が高いと言えます。
そのため、ご相談をいただいた方に労働契約での締結をアドバイスしました。
これは一例ですが、個人への業務委託は、「労働者性」が認められる可能性が高く、業務委託契約書として締結するのは難しいケースが非常に多いと言えます。
★個人事業主への業務委託は、労働契約の可能性が非常に高く、非常にハードルが高いですが、適正な業務委託契約書を作成できる場合がございます。
お悩みの方はご相談ください。
4.個人への業務委託に適した業務
一方で、個人への業務委託に適した業務があることもまた事実です。
個人に業務委託するためには、その業務に「労働者性」がなく、丸投げであるかどうかがポイントとなりますが、以下の業務については、個人への業務委託に適した業務の代表例です。
・翻訳業
・大工業
・執筆業
・講師業
・デザイナー
・カメラマン
・集金人
といったところが挙げられますが、最初に打合せをして、注文者の通常行う程度の依頼指示は受けますが、注文者からの業務遂行上の指揮命令を受けず、時間的な拘束もなく、自分の裁量で実施するような業務が個人への業務委託に向いていそうです。
ただ、上記の業務も絶対に労働契約に該当しないかと言われれば、完全にそうとは言い切れません。運用次第では、「労働者性」に該当することになり、結果労働契約になる可能性もあります。
いずれにしろ、個別の業務について、具体的に検討することが必要となるのです。
5.個人への業務委託に適さない業務
先ほど、「個人への業務委託に適した業務」について解説しましたが、「個人への業務委託にあまり適さない業務」ももちろん存在します。これらを以下に列挙してみました。
おそらく、「労働者性」「使用従属性」など個人への業務委託に関する深い知識がないと、労働契約書とみなされ、業務委託契約書とみなされないのではないかと考えます。
・美容、理容
・エステティックサロン、足つぼ、まつ毛エクステ、ネイルサロン、リラクゼーション
・塾講師、家庭教師、英会話講師
・整体師
・ホステス、キャバクラ
これらの業務でも、必要な条件を満たせば、業務委託契約書として許容できる場合もあります。
お気軽にご相談ください。
★個人事業主との業務委託にあまり適さない業務でも、業務委託契約書として許容できる場合もございます。業務委託契約書の作成、チェックなどをご希望の方はご相談ください。
6.口頭契約によるリスク
個人事業主と業務委託契約を締結するケースが増えていて、トラブルも多く発生しております。トラブルの多くが契約書を作成しない口頭契約によるものです。
確かに、実体が労働契約であることが非常に多いですから、業務委託契約書として締結するのははばかられるのかもしれませんが、何も書面で定めないのは、非常にリスクの高い行為と言わざるを得ません。
書面に残さなければ、後日トラブルになった場合に、立証ができなくなってしまいます。
そんなことにならないように、契約書は書面に残しましょう。
詳しくは、なぜ契約書を書面で作成するのか?参照ください。
また、下請法に該当するような取引の場合、3条書面と言って、実質的に契約書となるような書面を交付する必要がありますから、注意が必要です。
7.個人との業務委託契約にお悩みの方へ
個人との業務委託契約書については、実際に委託する会社側からのご相談をよく受けます。お話を伺うと、前述のチェック項目のいずれかに必ずと言っていいほど該当し、「労働者性」が強く、業務委託契約書の作成をお断りするケースこともままあります。
この場合、労働契約への方向転換をお願いするのですが、どうしても受け入れられないという方もいらっしゃいます。そのような場合には、チェック項目のどこに該当するかをお知らせし、改善していただけるようであれば、業務委託契約書の作成をお受けすることができます。
また、よくインターネット上でダウンロードした(有償無償を問いません)業務委託契約書の雛形を使用して締結しようとされている方を多く見受けますが、個別の案件ごとに、それぞれ事情が異なりますので、雛形はあくまでも参考程度にすべきで、そのまま締結してしまうのは非常に危険です。
いずれにしても、個人への業務委託契約は、「労働者性」の判断項目をしっかりと考慮に入れて検討していく必要がございますので、専門的な知識がないと、法令違反となるおそれもあり、非常にリスクが高いです。
個人との業務委託を安全に進めたい。そのために、業務委託契約書を作成したいということでお悩みの方は、ぜひご相談をいただければと思います。