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アジャイル開発契約書(準委任契約)を徹底詳細解説!

最終更新日:2024年6月15日

 

アジャイル開発契約書について、徹底解説をしております。

 

 

アジャイル開発とは?

「アジャイル開発」とは、ソフトウェアやシステム開発の手法の1つで、ウォーターフォール開発※のような「大きなサイクル」で開発を進めていくのではなく、「小さなサイクル」で「要望」→「設計」→「実装」→「テスト」を反復して開発を進めていくものです。

 

なお、「Agile」(アジャイル)は、直訳すると、「機敏な」、「頭の回転が速い」という意味で、従来の開発手法と比較して開発期間が短縮されるため、「アジャイル開発」と呼ばれています。

 

※ウォーターフォール開発:開発するソフトウェアの機能など要件定義や仕様を事前に確定させてから進める開発。通常、上流工程と下流工程とに分かれ、上流工程は「準委任契約」、下流工程は「請負契約」とされています。

 

 

 

アジャイル開発のメリット

アジャイル開発は、ソフトウェアの機能を事前に確定させてから開発していくのではなく、優先度を設けて、ソフトウェアの必要な機能を柔軟に開発していくことが特徴ですので、以下のメリットがあります。

  • 利用したい必要な機能をスピーディに開発できる。
  • その時点で、優先度の高い(1番利用したい)機能から開発できる。
  • 委託者の要望の変化に対して柔軟に対応できる。
  • 不要となった機能の開発を見送ることができる。
  • 保守や運用も同時に進めることができる。

 

 

 

アジャイル開発契約書の性質

アジャイル開発契約書の性質は、「仕事の完成責任を負わない」ということです。

「仕事の完成責任を負わない」ということは、「請負契約」ではなく、「準委任契約」ということになります。

 

アジャイル開発は、ウォーターフォール開発とは異なり、ソフトウェアの機能など要件定義や仕様を確定させてからソフトウェアを開発する(仕事の完成責任を負う)のではなく、1週間や1か月など小さなサイクルの中で、ソフトウェアの機能の追加・変更、優先順位の変更、既開発部分の修正などに柔軟に対応し続ける(仕事の完成責任を負わない)ことができるからです。

 

そのため、あらかじめ仕事の範囲が特定された成果物の完成に対して、報酬を支払う「請負契約」ではなく、受託者が業務の処理を実施し、その業務の処理によりもたらされた成果を委託者に引渡すことに対して、委託者が報酬を支払う「準委任契約」のほうが適しているといえます。

 

アジャイル開発契約書と準委任契約

 

 

 

 

アジャイル開発契約書に必要な条項

アジャイル開発契約書に必要な条項を以下のとおり記載いたしましたので、ご参考にしてください。

アジャイル開発の対象

アジャイル開発では、そもそも何を、どのようなソフトウェアやシステムを開発するのか、開発の対象を明確にしておくことが必要となります。

受託者の立場としては、アジャイル開発契約の一環として、アジャイル開発業務とは関係のない業務の実施を強制される可能性もありますので、対象を明確にして、業務を処理していくことが重要となります。

準委任契約であること

アジャイル開発は、業務の開始段階では、ソフトウェアの完成形が定まらず、小サイクルを反復して、委託者と受託者との間で少しずつソフトウェアの機能を作成していくものですので、「準委任契約」であることが前提となります。

そのため、アジャイル開発契約書においても、委託者と受託者がそれに合意していることを明確にするため、契約書の「前文」や(目的)や(本契約の性質)というタイトルでもいいですから、受託者が「準委任契約」であることに基づき、アジャイル開発業務を実施する旨を明記しておきたいところです。

役割分担

アジャイル開発は、委託者と受託者が小サイクルで、反復して、双方が連携しながら業務を進めていくものです。

そのため、双方の協力義務や役割分担を明記しておくことが重要となります。

委託者と受託者とが協力して行う業務、委託者または受託者それぞれが単独で実施する業務についても明記しておきたいところです。

特に、受託者は、開発のプロともいえる存在ですので、開発に関する助言やコンサルティングのような業務も入ってくるかもしれません。

後日紛争になることがないよう、受託者がどこまで義務を負うのかはっきりと明記しておきましょう。

連絡協議会の開催

アジャイル開発では、小さなサイクルを反復して、開発をおこなっていくものですので、そのサイクルごとに、委託者と受託者の責任者や担当者が出席して、連絡協議会を開催することがあります。

そのため、連絡協議会の開催頻度や集合場所などをあらかじめ明記しておきます。

また、連絡協議会で決めた内容を議事録にして、両者で確認するなど事前に決めておきたい点を記載しておくことが重要となります。

成果物の提出と確認

アジャイル開発に基づき作成された成果物は、受託者から委託者に提出され、委託者が成果物に債務不履行がないか確認を行います。

また、アジャイル開発は、請負契約ではありませんから、仕事の完成をチェックための「検査」とならないようにする必要があります。

報酬

アジャイル開発の報酬は、一般的なソフトウェア開発のように、比較的高額な委託料を検査終了後に支払うこととなるのではなく、月額料金を毎月支払うものとなることが多いです。

また、毎月の月額報酬や単価が定まっていますので、原則として、開発の都度、見積書を出すこともありません。

実施責任者

アジャイル開発を業務委託で行う場合、委託者から受託者への指示は、実施責任者や業務責任者などと呼ばれる責任者を通じて行わなければ、偽装請負とみなされる可能性がありますので、そのような責任者を定めておきます。

実施責任者は、必ずしもアジャイル開発契約書に定める必要はありませんが、契約締結後でも業務開始前までに、書面等で通知すれば場大丈夫です。

ただ、実施責任者が注文を受ける窓口であることや、受託者の担当者の管理等を行うことは明記しておいたほうがよいでしょう。

期限の利益喪失

期限の利益とは、委託者が契約に定める支払期限まで報酬を支払わなくてもよいことで、期限が到来しないことによって得られる利益のことをいいます。

したがって、期限の利益があれば、支払わなくても、委託者は債務不履行責任を負いません。

ただ、受託者からすれば、委託者の経済状態が悪化している場合にでも、支払期限まで契約金額を支払ってもらえないということになると、委託者の経済状態が更に悪化してしまい、支払の請求ができず、債権を回収できないおそれが出てきます。

そこで、民法(137条)では、委託者が次に該当する場合、期限の利益を喪失することになっています。

(1)破産手続開始の決定を受けたとき。
(2)担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
(3)担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。

しかし、委託者が上記の状態になるまで期限の利益があるとすると、受託者は債権を回収できる見込みがなくなってしまいます。

そのため、委託者に、次のような経済状態に悪化の兆しが現れた場合、期限の利益喪失条項を定めておくことが重要となるのです。

(1)手形又は小切手を不渡りとしたとき
(2)差押え、仮差押え、仮処分、競売、租税滞納処分その他公権力の処分を受けたとき
(3)破産手続開始、会社更生手続開始若しくは民事再生手続開始の申立てがあったとき、又は清算に入ったとき

なお、この期限の利益喪失事項に該当すると、相当期間を猶予しないですぐに契約解除される無催告解除事由と共通になることが多いです。

 

  

アジャイル開発契約書に不要な条項

アジャイル開発契約書は、「請負契約」でなく、「準委任契約」ですので、以下については、アジャイル型開発契約書には記載しないほうがよさそうです。

記載してしまいますと、「請負契約」と判断されて、仕事の完成責任を負うこともありますので、注意が必要です。

  • 仕事の完成をチェックする受入検査
  • 契約不適合
  • 仕事の完成に対する報酬の支払

 

 

 

 

アジャイル開発契約書の印紙

アジャイル開発契約書は、「準委任契約」の性質を有し、「不課税文書」となりますので、収入印紙は不要となります。

 

但し、アジャイル開発契約書に、「請負契約」の性質を有する条項を規定することで、印紙税法上の「2号文書」や「7号文書」と判断され、収入印紙の貼付が必要となる可能性がありますので、ご注意ください。

 

アジャイル開発契約書について、リーガルチェックをしてみると、収入印紙の貼付が必要となる「課税文書」となっていた事例がいくつもありますので、ご不安な方は、お気軽にご相談ください。

 

 

 

 

 

請負型のアジャイル開発契約書

これまで述べて来ましたとおり、アジャイル開発契約書は、「準委任契約」の性質を有するものが基本となりますが、事前に、仕様が決まるようでしたら、仕様や成果物を都度決定して、「請負契約」で進めるという方法もあるかもしれません。

 

実際に、委託者にとっては、そのほうが「請負契約」の成果物や受託者の義務が明確となり、「請負契約」の責任を受託者に問えますので、有利となります。

 

また、開発は「請負契約」でないと委託できないという方針の会社や官公署等もあります。

 

この場合には、あらかじめ「請負契約」の性質を有する「業務委託基本契約書」を締結しておいて、仕様ごとに、委託者が「注文書」を交付し、受託者が「注文請書」を交付して契約を締結してから進めるという方法が適しています。

 

これに対応する「業務委託基本契約書」「注文書「注文請書」の作成も可能となっておりますので、お気軽にご相談ください。

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