請負と委任の違い
ここで、「請負」と「委任」の何が違うかについて解説していきます。
まず、「請負」とは、当事者の一方(請負者)がある仕事の完成を約し、相手方(注文者)がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを内容とする契約のこと(民法632条)をいいます。
次に、「委任」は、当事者の一方(委任者)が法律行為をすることを相手方(受任者)に委託し、相手方がこれを行うことを内容とする契約のこと(民法643条)をいいます。
なお、「委任」は法律行為の委託であり、法律行為以外の事務の履行を委託することを「準委任」といい、「委任」の規定が準用されますが、業務委託契約書で委託される業務は、その多くが法律行為以外の事務ですから、厳密には「準委任」となります。
ただし、このページでは、「委任」と「準委任」は、法律関係に違いはありませんので、「委任」・「準委任」をあわせて「委任」とさせていただいております。
請負のほうが重い責任を負います
「請負」と「委任」のどちらも契約相手の指揮命令を受けず、独立した立場で何かを代わりにやってもらうことというのは共通していますが、その違いは、仕事の完成責任を負うのかどうかです。
まず、「請負」の場合は、請負人が仕事を完成する義務を負いますので、仕事の完成責任を負う成果を引き渡したり、業務を完了させるなど、仕事を完成させなければ、報酬が発生しません。
例えば、システム開発などのように、ただ業務を実施すればいいという訳ではなく、ユーザの要求する仕様に合致するシステムを納入しなければ、仕事を完成させることにはなりません。
一方、「委任」の場合は、受任者は、委任された事務の履行を、善良なる管理者の注意義務(職業や生活状況に応じて、抽象的な平均人として一般に要求される程度の注意義務)で行えば、報酬が発生しますし、仕事の完成義務を負いません(履行割合型)。
例えば、患者と医師との診療契約の場合、医師は善管注意義務を負い、ベストは尽くしますが、必ず病気等の治癒に導かなければならない訳ではありません。患者としては、医師に診察してもらうという一定の事務を履行することを委任しており、病気の治癒という結果に対して報酬を払うものではありません。
また、「委任」の場合、委任事務の履行だけでなく、委任事務の履行によってもたらされた成果を引渡すことを目的とする「成果報酬型」というのも2020年の民法改正で明文化されました。
この例として、近年、ソフトウェア開発の手段の一つとして採用されることが多くなってきた「アジャイル型開発」です。
一般的に、ソフトウェア開発と言えば、前述のとおり、仕事の完成責任を負う請負契約と考えられますが、この「アジャイル型開発」は、契約締結時点で、明確な仕様を定めるのではなく、委任事務の履行として、優先順位の高い要件から開発を進め、開発と運用を繰り返し行いつつ、仕様や要件の変更に柔軟に対応していくものです。
確かに、アジャイル開発の結果、何らかの成果はもたらされますが、それは、仕事の完成責任を負うのではなく、委任事務の履行によってもたらされる成果の引渡しとなりますので、「委任」ということになります。
請負の契約不適合責任
請負では、2020年4月1日の民法改正により、従来までの「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に改正されました。
一方、委任では、契約不適合責任のような重い責任を負いませんので、やはり請負のほうが委任よりも重い責任を負っているということになります。
請負において、引渡された目的物が種類または品質に関して契約の内容に適合しない(契約不適合)ときは、委託者は、受託者に対し、履行の追完請求(履行請求)、報酬の減額請求、損害賠償請求、契約の解除をすることができます。
委託者の履行追完請求権
履行の追完については、目的物の修補、代替物の引渡しまたは不足分の引渡しがあり、原則として、委託者がいずれかの方法を請求することができますが、委託者に不相当な負担を課するのでなければ、受託者は委託者の請求した方法とは異なる方法で履行の追完請求することが認められています。
委託者の報酬減額請求権
委託者が相当の期間を定めて上記の履行の追完請求を行ったにもかかわらず、その不適合の程度に応じて、報酬の減額を請求することができます。
ただし、次の場合には、委託者は、上記の催告をすることなく、ただちに代金の減額を請求することができます。
①履行の追完が不能であるとき
②受託者が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき
③契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、受託者が履行の追完をしないでその時期を経過したとき
④上記①~③のほか、委託者が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき
契約不適合責任期間
委託者は、契約不適合を知った時から1年以内に、その旨を受託者に通知しないときは、受託者の契約不適合責任を追及できないとしています(民法637)。
この契約不適合責任期間は、任意規定であり、民法の規定では、受託者の責任が長期に及ぶことから、契約当事者が合意のうえ、「契約不適合を知った時から」でなく、「検査に合格した時から」としたり、「1年」を「6か月」とするなど短期間に修正することができます。
請負と委任の比較
「請負」と「委任」を比較しました。
「請負」は「成果を納入するもの」で、「委任」は、「役務を提供するもの」だと誤解している方が多くいらっしゃいます。
確かに、「成果を納入するもの」になると「請負」に該当することが多いですが、「委任」の場合でも、委託者と受託者で共同して作成する要件定義書や弁護士委任契約書の場合の有利に決着したときの成功報酬などがこれに当たります。
また、「請負」は、仕事を完成することを目的としており、成果が目で見えにくい清掃や保守などの「役務を提供するもの」についても、「請負」に該当するものもあります。
※契約書の例については、一般的な契約書について判別したものであり、具体的には文書の記載内容により異なる場合があります。
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